成年後見人の報酬,相場はどれくらい?

増える認知症高齢者数

65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計についてみると、2012年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)でしたが、2025年には約5人に1人になるとの推計もあります(平成29年版高齢社会白書(厚労省)-内閣府のページより)。

認知症になると生じる問題

認知症になると,銀行から本人のお金を引き出すのにも支障が生じるようになります。このようなとき,成年後見人がついていれば,本人のために預金の引き出しをすることができます。
また,訪問販売で不要な高価品を買わされてしまうなどの問題が生じることもあります。このようなときは,成年後見人は,契約を取り消すことができます(しかし、なんでも取り消すことが認められているわけではなく、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、認められていません)。
このように、成年後見制度を必要としているのは,必ずしもお金をたくさん持っているお年寄りに限られません。

国の成年後見制度の利用推進政策と伸び悩み

国は成年後見制度の利用を推し進めており,平成28年4月には,「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)が成立しました。
しかし,成年後見制度の利用はほとんど伸びていません。
平成30年の成年後見関係事件(後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人 選任事件)の申立件数は合計で36,549件(前年は35,737件)であり,対前年比でわずかの増加しかありません。
成年後見関係事件の概況―平成30年1月~12月-最高裁判所事務総局家庭局)
この理由は,そもそも制度自体が知られていないことや,申請するときも,申請後も「面倒くさい」ことがあると思われますが,大きな理由として,「お金がかかる」ことが挙げられるのではないかと思います。

だれが成年後見人に就任するのか

成年後見人への報酬は,本人の財産の一部から支払うことになります。
親族なら無報酬でOKです(ただし,成年後見人の業務を監督する成年後見監督人が裁判所で選任された場合,成年後見監督人に月額1万円~3万円の報酬を支払う必要があります)。
しかし,近年,裁判所は親族よりも第三者の専門家を成年後見人にする傾向がありました。
成年後見人等(成年後見人,保佐人及び補助人)と本人との関係をみると,配偶者,親,子,兄弟姉妹及びその他親族が成年後見人等に選任されたものは全体の約23.2%ですが,親族以外(弁護士,司法書士,社会福祉士等)が成年後見人等に選任されたものは,全体の約76.8%を占め,親族が成年後見人等に選任されたものを大きく上回っています(上記最高裁資料)。
この理由については,問題が起きたときに裁判所が責任を問われないように専門家を登用している,なんて話も囁かれていました。

しかし,最近,最高裁は,次のように親族後見人が望ましいとするという考え方を示しました。

<最高裁と専門職団体との間で共有した後見人等の選任の基本的な考え方>

◯ 本人の利益保護の観点からは,後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は,これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい。
◯ 中核機関による後見人支援機能が不十分な場合は,専門職後見監督人による親族等後見人の支援を検討
◯ 後見人選任後も,後見人の選任形態等を定期的に見直し,状況の変化に応じて柔軟に後見人の交代・追加選任等を行う。

→平成31年1月 各家裁へ情報提供

平成31年3月18日(月)第2回成年後見制度利用促進専門家会議配布資料3

しかし,親族がいない,いても近くにいないので財産管理や身上監護ができない,親族の間で争いになるおそれがある(成年後見人のきょうだいが親のお金を使い込んでいる!などと別の子どもが疑いをもつようになるという話はよく聞く話です)・・・などの場合は第三者後見人を選任することになります。
第三者を後見人とするのであれば,報酬を払わなければなりません。

最近,自治体や社会福祉協議会などが養成を急いでいる市民後見人なら無料で後見人業務をやってくれるのでは?とも思うかもしれませんが,そんなことはありません。もちろん,市民後見人になる方々は,無償でもやる、という気持ちでやっていらっしゃるのだと思いますが,成年後見人は,完全ボランティアでやるには責任が重すぎる仕事です。
ただし,市民後見人の報酬は専門家後見人の報酬より低額になる傾向はあります。

成年後見人の報酬の相場は?

では,成年後見人の報酬はどれくらいなのでしょうか。東京家裁の例を挙げてみます。

<成年後見人の基本報酬>
成年後見人が,通常の後見事務を行った場合の報酬のめやすとなる額は,月額2万円です。
ただし,管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)が高額な場合には,財産管理事務が複雑,困難になる場合が多いので,管理財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合には基本報酬額を月額3万円~4万円,管理財産額が5000万円を超える場合には基本報酬額を月額5万円~6万円とします。

成年後見人等の報酬額のめやす 平成25年1月1日 東京家庭裁判所,東京家庭裁判所立川支部

月額2万円をご本人が亡くなるまでずっと支払い続けるのはけっこうな負担になります。人の命はどれだけの長さになるのか分からないですから,当然,生涯でどれくらいの金額になるのかは分かりません。
しかし,生きていれば事故や病気でまとまったお金が必要になる可能性があります。高齢者やその家族は,万が一のときのため,できるだけお金を使いたくないのです。
そうすると,成年後見制度の利用を躊躇するのももっともだといえます。

自治体の後見人等報酬助成制度

しかし,現在、各自治体において成年後見の申立費用や報酬を支払うことが困難な人向けの助成制度が設けられていますので、お住まいの自治体の制度を確認してみてください。条件と助成内容の概要の例を次に挙げます。

<川崎市の例>
〇助成対象者
被後見人等であって、次の1~3のいずれかに該当する場合に対象となります。
1 生活保護受給者
2 中国残留邦人等支援法による支援給付受給者
3 生活保護受給者に準ずると認められる方。具体的には、次の(ア)~(ウ)の全てに該当する方 になります。
(ア)被後見人等及び生計を一にする世帯員全員が市民税非課税であること
(イ)被後見人等の預貯金・現金の額が、報酬額に30万円を加えた額を下回ること
(ウ)被後見人等が居住する家屋その他日常に必要な資産以外に活用できる資産がないこと

川崎市ホームページより

このような条件に該当すれば,助成を受けることができます。しかし,多くは川崎市の例のように生活保護レベルの収入や資産状況であることが条件のようです。これだと,預貯金が少々あるような方は助成を受けられないということになってしまいます。また,申立人が自治体の長である場合に限定している自治体も少なくないようです。

成年後見制度の在り方は,根本的に考え直すべき時期にあるように思います。もちろん、国もそれを認識して取り組んでいる最中ですが…。
使いやすい制度となるよう、私も自分なりにできることを模索していきたいと思っています。