遺言書を作ったほうがよい人part2

以前,「遺言書を作ったほうがよい人」という記事の中で,相続財産のほとんどを不動産が占めていて,相続人が複数いるような方は特に遺言書を作るべきというお話をさせていただきました。

→過去記事「遺言書を作ったほうがよい人」

もちろん,どのような方であっても遺言をすることが望ましいのですが,他にも,遺言の必要性が高い方はいらっしゃいます。とりわけこのような方はぜひ遺言を検討していただければと思います。

子どものいない夫婦

お子さんのいないご夫婦の場合,どちらかが亡くなると,相続人は配偶者と亡くなった方の親または兄弟姉妹になります。
たとえば,両親はすでに他界していて,相続人は配偶者と兄弟姉妹であるケースはよく見受けられます。このような場合に,相続財産は後に残る配偶者の生活費にしてもらいたいと思っていても,何もしないでいると4分の1は兄弟姉妹のものになってしまいます。相続人同士で話し合って合意すればすべて配偶者が相続することができますが,さて,話し合いはそんなにうまく行くでしょうか・・・?
このような場合は,「財産はすべて妻(夫)〇〇に相続させる」といった遺言をしてください。兄弟姉妹には遺留分もないので,すべて配偶者の財産とすることができます。

相続人がいない人

配偶者,子(または孫),親(または祖父母),兄弟姉妹(または甥・姪)がいずれもいない(存在しないまたは亡くなっている)場合,相続人が不存在ということになります。
このように相続人がいない場合,家庭裁判所によって相続財産管理人が選任され,「特別縁故者」への分与を除いて,財産は国のものになってしまいます。
特別縁故者(民法958条の3)とは,
(1) 被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の夫・妻,事実上の養子など)
(2) 被相続人の療養看護に努めた者(親族,知人,看護師,ヘルパーなど)
(3) (1)(2)に準ずるような,その他特別の縁故があった者
とされており,個別の事案ごとに家庭裁判所が判断します。
しかし,特別縁故者にあたる人でも,遠慮して名乗り出ないことも多いようです。
そこで,遺言をすることによって,親しい人,お世話になった人,お寺,施設,慈善団体などに財産を残すことができます。

離婚歴があり,前配偶者との間の子と現在の配偶者との間の子がいる人

例えば,先妻の子と後妻の子がいる場合もなかなかやっかいです。離れて暮らす先妻の子も,後妻の子と同じように相続人になります。特に,両方の家族に交流がほとんどないような場合に,相続人同士で遺産分割の話合いを円滑に進めることはなかなか困難ではないでしょうか。
遺産分割協議が長期間まとまらなければ,その間預金が凍結され,再婚後の配偶者や子どもが生活に困窮するなんてこともあり得ます。
このような場合,遺言をしておけば,紛争を防止することができます。

内縁の妻・夫がいる人

実質は夫婦であっても婚姻届を出していない内縁の配偶者は相続人ではありません。したがって,他に相続人がいる場合,何もしなければ遺産を得ることができません。例えば,亡くなった夫の相続人として兄弟姉妹がいる場合,財産を相続するのは内縁の妻ではなく,兄弟姉妹になります。そのため,内縁の妻に財産を残したい場合は,遺言書を作成する必要があります。
もっとも,相続人が誰もいない場合,内縁配偶者は,特別縁故者として財産の分与を家裁に申し立てることにより,財産の全部または一部を受け取ることができます。

中小企業のオーナー

中小企業の代表者が所有する会社の資産や株式も相続財産になります。例えば,相続によって自社株式が複数の相続人の手にわたると,会社経営に関心のない相続人や経営方針が異なる相続人が議決権を得て会社経営に関与することになり,会社の経営が立ち行かなくなってしまうようなことがよくあります。
そこで,現経営者(例えば父)がまとまった形で後継者となる相続人の1人(たとえば長男)に相続させるためには遺言が必要です。

しかし,それがほかの相続人の遺留分を侵害する場合は,他の相続人から遺留分の請求がされてしまう可能性があります。
(遺留分について→過去記事「遺言書を作ったほうがよい人」
このような問題への対応のために,「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定され,遺留分に関する民法の特例が規定されました。
この民法特例を活用すると、後継者を含めた現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、
①遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)、又は
②遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)
をすることができます(両方を組み合わせることも可能です)。