所有者がいなくなった家と宅地の行く末は?


こんにちは。弁護士・終活カウンセラーの海老原佐江子です。

長年住んだ持ち家にはたくさんの思い出があり,愛着がありますよね。この家と宅地は,所有者が亡くなったら,どのような運命をたどるのでしょうか。

遺言がある場合

まず,所有者が遺言で財産を誰に残すかを指定していたら,その人が取得することになります。土地と建物は長男に,預貯金は次男に,などといった感じです。
また,遺言では,相続人でない人にも財産を残すことができます。例えば,内縁の妻に財産を残したいとか,お世話になった社会福祉法人に財産を有効活用してもらいたいとかであれば,遺言書を作成することで実現できます。

遺言がない場合

遺言がない場合は,原則,民法で定める相続人に相続分の割合に従って相続されます。
相続人とは,配偶者,子,親,兄弟姉妹です。
まず,配偶者がいれば,配偶者は常に相続人になります(民法890条)。
子どもがいれば,子どもは第1順位の相続人になります(民法887条1項)。もし子どもがすでに亡くなっていたら,孫が代わりに相続します(同条2項)。
親は第2順位の相続人です(民法889条1項1号)。子どもがいない場合,配偶者と親が相続します。
兄弟姉妹は第3順位の相続人です(同項2号)。親が亡くなっていたら,配偶者と兄弟姉妹が相続します。兄弟姉妹が亡くなっていたら,甥や姪(兄弟姉妹の子ども)が代わりに相続します。
子,親,兄弟姉妹が複数人いるときは,各自の相続分は等しくなります(民法900条4号)。

まとめてみるとこんな感じです。

相続人 相続分
配偶者と子 各2分の1
配偶者と親 配偶者3分の2,親3分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者4分の3,兄弟姉妹4分の1

 

このように,家と宅地の所有者がいなくなっても,この人たちが何らかの対応をすることになります。財産をめぐって親族間で熾烈な争いが生じるかもしれませんが,所有者が亡くなった瞬間に家と宅地はこの方たちの所有になりますので,この方たちが何とかするしかありません。

相続人がいない場合には・・・?

問題は①相続人がいない場合や,②相続人がいても相続放棄された場合です。
まず,相続人がいない場合とは,亡くなった方に上記の親族に当たる方がいないケースです。
次に,相続人全員が相続を放棄する場合があります(民法938条)。例えば,プラスの財産よりもマイナスの財産(借金)が多い場合や,借金はなくても財産に価値がなく,相続することによって管理のコストばかりがかさむような場合です。残された家に住むこともないし,売ることもできないし,貸すこともできないような場合,所有しているだけでコストがかかります。このような場合は,相続人は相続放棄するほうが良いと判断するかもしれません。

所有者のない不動産は国庫に帰属する・・・?

以上のような場合,財産は国庫に帰属することとされています(民法959条)。財産を国庫に帰属させるには,家庭裁判所が相続財産管理人という人を選任し,財産を売却してお金に換えて,国に現金を納めるという手続きがとられます。
この相続財産管理人の選任の請求は,利害関係人か検察官しかすることができません(民法952条1項)。利害関係人とは,典型的には,亡くなった方の債権者(お金を貸していた人など)や特別縁故者(亡くなった方を献身的にお世話していた人など)です。
条文では,検察官が公益のために相続財産管理人の選任を請求できることになっているので,利害関係人の申出がない場合は,検察官が請求をしてくれそうですが,私はそのような事例を見聞きしたことがありません。少なくとも検察官が請求をするのは,稀なケースといってよいのではないでしょういか。

流通性の問題が大きい

ご承知のとおり,古い建物にはほとんど価値はありません。土地には価値がありそうですが,土地の売却代金で建物の除却費用をまかなえないような場合は,利害関係人も相続財産管理人の選任の請求をしないまま,家や土地は放置され,どんどん荒廃していってしまう・・・そんな事態が生じ得ます。

空き家になってしまうと・・・

朽ち果てた家は周囲の住環境に悪影響を与え始めます。近所から苦情が自治体の窓口に多数届くようになり,それから何年も経って役所が重い腰をあげて対応を始める・・・といったことになりかねません。役所も税金で運営している組織ですから,本来は個人の責任で除却するべき建物を簡単に除却してくれるわけではありません。

このような場合の対策としては,生前に自宅を処分しておくか,少なくとも除却費用を自分で残しておくしかないと思われます。

総務省の調査では,この5年で空き家は26万戸増え,全国で846万戸に達したそうです。この数値は45年間連続で増え続けており,空き家率は過去最高の13.6%なのだとか。なんと山梨県では空家率は21.3%にも上り,5軒に1軒が空き家の状態なのだそうです。

空き家の問題,多くの人にとって身近で深刻な問題だと思います。実は私自身も,将来,実家をどうするか,頭を悩ませているところです。