自筆証書遺言と公正証書遺言,どちらがよいの?

遺言の類型には3種類あります。自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言です(民法967条)。秘密証書遺言はほとんど利用されていないのでここでは省略します。それでは,自筆証書遺言と公正証書遺言のうち,どちらを選べばよいのでしょうか。それぞれの内容と特長を見ていきましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は,遺言者が,全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならないとされています(民法968条1項)。自書というのは,自筆で書かなければならないということです。加除訂正の方法も,変更した場所に押印し,その場所を指示して変更した旨を付記し,これに署名しなければならないと厳格に定められています(同条2項)。しかし,民法改正(平成31年1月13日施行)によって自書の要件が緩和され,自筆証書遺言に財産目録を添付する場合は,その目録についてはパソコンで打ったものや通帳のコピーを添付することができるようになりました(新民法968条1項)。ただし,そのすべての頁に遺言者が署名押印をしなければなりません(新民法968条2項)。

公正証書遺言

公正証書遺言は,公証役場といわれる機関にいる公証人のもと,作成される遺言です。
公正証書遺言は,証人2人以上に立ち会ってもらい,遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝え,公証人が筆記して遺言者及び証人に読み聞かせ(または閲覧させ),遺言者,証人及び公証人がが署名・押印するという手続きによって作成されます(民法969条)。作成した公正証書遺言は公証役場に保管されます。

自筆証書遺言,公正証書遺言のメリット,デメリット

自筆証書遺言の場合

まず,自筆証書遺言の最大のメリットは,費用がかからないことです。紙,ペン,印鑑があればどこでも手軽に作成することができます。また,遺言の内容を自分だけの秘密にしておくことができます。
しかし,自筆証書遺言の書き方には厳格な方式が定められているため,不備があると無効になってしまう可能性があります。また,自筆証書遺言は自分で保管しなければならないため,改ざんされるおそれがありますし,何より亡くなった後に見つけてもらえない可能性があります。遺言が存在しないと思い,相続人たちが遺産分割協議をした何年も後になって,遺品の中からひょっこり遺言書が出てきたら・・・。この場合の遺産分割が直ちに無効になるわけではありませんが,誰かが不満に思い,遺産分割の無効を主張する可能性もないとは言い切れません。このような時にもう一度相続をやり直すのは大変です。
また,自筆証書遺言を見つけた相続人は,開封せずに家庭裁判所に持って行って検認という手続きをしてもらわなければならないのですが,それを知らずにうっかり開けてしまう,なんてこともあり得ます。遺言の検認をしないと財産の名義変更等を進めることはできませんが,その申立てにはそれなりの手間と期間が必要です。

公正証書遺言の場合

それに対し,公正証書遺言の場合,公証人は裁判官・検察官OBなど法律のプロなので,形式の不備で無効になるおそれはありません。また,遺言を公証役場で保管してもらえるので,死後に発見されないということもありません。さらに,検認の手続きなく,すぐに相続手続きに入ることができるというメリットもあります。
ただし,デメリットとしては,財産の額等に応じた手数料がかかること,戸籍事項全部証明書や不動産の登記全部事項証明書等等の書類を用意して公証役場へ持っていなかければならず,少々面倒であるということです。また,証人となる人(友人・知人など)に遺言の内容を知られてしまうということもあります。

このように自筆証書遺言,公正証書遺言のメリット,デメリットは様々ありますが,自筆証書遺言のリスクを考えると,「たとえ後に争いになるリスクがあっても手間とお金をかけたくない」という信念をお持ちの方を除いては,自筆証書遺言ではなく,公正証書遺言を作成しておくほうが賢明であるように思います。

自筆証書遺言に関する法改正

平成30年7月6日,「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し,平成32年7月10日に施行されることとなりました。この法律は,自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で預かる制度について定めています。この制度によれば,改ざんや紛失の防止がなされ,遺言書の存在の把握も容易になります。しかし,手間がかからないという自筆証書遺言のメリットは薄れてしまうように思います。