在宅で死ぬということ
日本人の最期の場が変わりつつある
かつて、日本では,自宅で亡くなる方が大多数を占めていました。
しかしその後、病院で亡くなる方が増えました。
自宅で亡くなる方と病院で亡くなる方の数は1970年代半ばに逆転し、現在では病院で亡くなる方が圧倒的多数になりました。
しかし、厚生労働省の資料を見ると,近年,また病院での死がゆるやかに減少しつつあります。
他方で,2000年代半ばを谷として,自宅で亡くなる方は漸増し,老人ホームや介護老人保健施設での死が急激に増えてきているように見えます。
「最期は病院で」。
厚生労働省の調査結果は,そのような意識が少しずつ変化していることを表しているように思います。
増え続ける医療費を抑制するために病院のベッド数を削減するという国策が,じわじわと効果を表しているのかもしれません。
また,最近,絶対に無理ではないかと思われていたお一人様の在宅死の話も聞くようになりました。
小笠原文雄医師の著書「なんとめでたいご臨終」には,1人暮らしのまま在宅医療と訪問看護を受け,自宅で亡くなった方のエピソードもたくさん掲載されています。
難しい家族の対応
「最期の場」に関しては,筆者にも苦い記憶があります。
長期間,自宅療養していた父は,ふだんから「病院には行きたくない」と言っていました。
そしてある日父の容体が急変した際も,父は「病院には行きたくない」と必死に訴えていました。
しかし,家族は救急車を呼びました。
突然の事にパニック状態にもなりました。
家で死なれるとご近所に迷惑になる…と思う気持ちもあったことは否定できません。
死が日常から切り離されていて,住宅が密集している現代社会ならではの問題なのかもしれません。
結局、救急車で病院に運ばれた父は,危篤状態から持ち直し、その後何度も重篤な状態に陥っては,医師の尽力で持ち直すことを繰り返しました。
しかし点滴につながれて手足が水ぶくれのようにぶよぶよになり、約3か月後に病院で亡くなりました。
住み慣れた自宅で最期を迎えるには
住み慣れた自宅で死にたい,と思っても、救急車で運ばれると、医師は救命に力を尽くさざるを得ません。その結果,自宅に戻れなくなり,思い描いていたものとは異なる最期を迎えることになるケースが多いと聞きます。
他方で、家族にとっては、急変した身内を前に救急車を呼ばないという選択は,そうそうできることではありません。
もしそのような選択をすると,ご家族はそのことを一生後悔し,自分を責めることになるかもしれません。
ですから,もし,自宅で最期を迎えたいと思うのであれば,予め準備をしなければなりません。
まずは,自宅の近くに信頼できる在宅医療を行う医師をできる限り早く見つけ,医師,看護師,介護者とのコミュニケーションを十分にとり,家族とも一緒によく話し合っておく必要があります。
そして,死期が近づいたときに家族はどう対応すればよいのか,的確な判断とアドバイスをしてもらうことです。
このような環境が整うかどうかは,現在のところ,運にも大きく左右されるように思います。
しかし,自宅で最期を迎えることの実現可能性が年々,高まってきていることは間違いないようです。
どのような最期を迎えるのかについて,一人ひとりが向き合い,選ぶ時代がやってきているのかもしれません。