自分で描く最期のシナリオ

少し時間がたってしまいましたが,2019年6月9日の日曜日は,知人に誘われて,在宅緩和ケア医師萬田緑平さんの「最期まで目一杯生きる」と題する講演会に行ってきました(誘ってくれたM.Fさんありがとうございます!)。

場所は,もんじゃで有名な東京・月島の区民館です。

講師は緩和ケア診療所の在宅医

さて,この講演会,地元の葬儀社さんが主催していたのですが,開催日2週間前で100人の定員が満席になったとのことで,当日もたくさんの人が講演を聴きに来ていました。

萬田緑平さんは,群馬県前橋市にある緩和ケア診療所の在宅医。
病気と闘いたくない人,治療を受けたくない人しか診療しないという少し変わった医師です。
この10年間で同じテーマの講演会を400回も実施しているのだそうです。

この本の著者です(向かって右側の方)。

人生の最終章が自分以外の人によって決められている

さて,この講演会のメッセージですが,ズシリと心に響く重いものがありました。
それは,私たちが当たり前のように抱いている死生観への問いかけそのものであったからです。

多くの人は,病気とは闘わなければならないものだという価値観を受け入れていると思います。
病気と闘わずに死んでいくことを家族も,友人も,医師もみんな嫌います。
だから「あきらめてはダメ!」「がんばろう!」と本人を励まします。
現代は,高齢者の延命治療を行わないという考え方も受け入れられるようになってきているようですが。
しかし,萬田医師が会場で流す記録動画には,高齢者だけでなく,病気と闘わないことを決めた30代~40代の患者や,まだ20歳そこそこの患者も登場します。

萬田医師は,これまで自分で自分の人生を決めてきたのに,人生の最終章を家族や医師によって決められてしまっているのはおかしいという疑問を投げかけます。
医学が描く”死なないシナリオ”は100%失敗するのに,みんなが認知症になるまで生きることを目指す日本の医療はおかしい,とも。

死にゆく大切な人にしてあげられること

「まだ何もしてあげていない」,「これから親孝行しようと思ったのに」,「もっと一緒にたくさんの時間を過ごしたいと思っていたのに」。
家族や友人としては,そんな気持ちから死を受け入れることができません。
本当は,本人が闘わないことを望むのであれば,望むような最期を支えることが,最後の「してあげられること」なんだろうと思います。
しかし,頭でそう分かっていても,心から理解するのは難しいと思います。

けれども、映像にうつる,亡くなるほんの数日前の患者さんたちが,家族や友人たちと楽しそうに笑って,会話をして,バーベキュー大会をして,お泊り旅行をして,うれしそうにお酒を飲み,煙草を吸う姿には,大きな驚きを感じざるを得ませんでした。

この問題に正解・不正解はないのだろうと思いますが,当たり前のように持っている死生観が大きく揺さぶられた講演会でした。