保険金の指定受取人が先に亡くなってしまったら

生命保険に入っている人はたくさんいらっしゃることでしょう。なかでも,自分が亡くなった時に,妻(夫)を死亡保険金の受取人に指定しているケースは多いと思われます。

しかし,自分より先に,指定受取人である妻(夫)が亡くなったらどうなってしまうのでしょう。指定受取人の変更を失念して放置している人もいらっしゃるのではないかと思います。

指定受取人が亡くなったのに,受取人の指定を変更せずにいると…

では,指定受取人が亡くなったのに,指定受取人の変更をしないまま被保険者も死亡すると,誰も死亡保険金を受け取れなくなってしまうのでしょうか。実はそんなことはありません。
このような場合,指定受取人の相続人で生存している人が保険金を受け取ることができます。

被保険者の夫と指定受取人の妻の間に子どもがいて,妻が夫より先に亡くなった事例を考えてみましょう。

妻の相続人は夫と子どもになります。しかし,夫は今回亡くなったのですから,結局は子どもが保険金を受け取ることができます。

 

しかし,問題が複雑化するのは,例えば次のような場合です。

保険金の請求がめちゃくちゃ大変に!?

例えば,被保険者の夫と指定受取人の妻に子どもがなく,親も先に亡くなっているのですが,夫と妻にはそれぞれきょうだい(きょうだいが先に亡くなっている場合は甥・姪)がいるような事例です。

このような場合,妻の相続人は夫と妻自身のきょうだい(きょうだいがすでに死亡している場合は甥・姪)になります。しかし,夫は今回亡くなったのですから,夫の相続人である夫のきょうだい(甥・姪)も保険金を受け取ることができます。

すなわち,保険金を受け取ることができるのは,妻のきょうだい(甥・姪)と夫のきょうだい(甥・姪)になります。こうなると,場合によっては保険金を受け取ることができる人が十数人にまでふくらんでしまう,ということもめずらしくありません。なお,このような場合に,各人が受け取ることができる保険金の金額は,法定相続分とは関係なく,保険金額をこれらの合計人数で平等に割った金額とされています(最高裁平成9月7日判決)。

ところで,保険金を支払うにあたり,通常,保険会社は権利者全員の印を求めます。しかし,人数が増えると全員の印を集めるのは大変です。夫のきょうだいと妻のきょうだい(場合によっては甥・姪)がふだんから交流しているという家はそれほど多くないのではないでしょうか。そのような人たちが協力して,保険金を請求するのは困難を極めることもあります。

単独での保険金支払請求は認められる?

それでは,全員の印を集めることが難しい場合,保険金はあきらめるしかないのでしょうか。

いいえ,実は,このようなケースについて判示した裁判例があります(東京地裁平成28年1月28日判決)。この裁判例は,簡易生命保険について,保険金を受け取る権利がある人のうちの1人が,単独で自分に支払われるべき分の保険金を請求した事案です。

この裁判例の事案では,被告である国(旧郵政省)は,法令及び保険約款に死亡保険金等の受取人が数人あるときは,代表者1人を定めて,その代表者が他の代表者を代理して,死亡保険金等の支払を請求しなければならない旨規定されていることを理由に,原告の請求を拒みます。しかし,判決は,このように述べて国の主張を退けました。

「…複数の保険金受取人間において代表者の選定が困難なことも稀ではないことに照らすと、複数の保険金受取人がある場合に、Y(国)が、保険金支払事務の簡明さと迅速性の要請の下、窓口における保険金支払手続において代表者の選定を要請することは許されるとしても、それを超えて代表者を選定しないことを理由に各保険金受取人の権利行使を制限することまでは許されないものと解される。

私がかかわった類似の保険金請求事案においても,保険会社からは当初,権利者全員の印を求められましたが,この裁判例を示し,全員の印をとることが難しい事情を説明して保険会社と交渉したことによって,無事,権利者のうちの1人の請求で,その権利を有する分の保険金を受け取ることができました。

しかし,大事なのは,保険に入りっぱなしのまま放置するのではなく,人生の節目や生活の変化に伴い,適時に保険の見直しをすることではないでしょうか。それによって,不要な保険に保険料を払い続けることを避けるだけではなく,このような面倒な事態を引き起こすことを防ぐことができます。