ここでは,私が、なぜ「終活」というテーマについて関心を持ったか、よくご質問をいただきますので、こちらでお話しさせていただきます。

 私は、政令指定都市の市役所に在職中に勉強して弁護士になりました。弁護士になった後も、都内の区役所の任期付職員になるなどして、20年間以上地方自治体の仕事に携わってきました。そのように、長年、住民の方の生活や人生にかかわる中で,人間の「終焉」の問題にも向き合ってきました。そして、そのような仕事に誇りを持っていました。

 しかし、同時に、行政は起こっている問題に対処はするけれども、税金で運営している組織としては、とても一人ひとりの方にとって満足がいくようなレベルでのサービス提供は難しいのが現実です。他方で、弁護士としては、一人ひとりの方が少しでも意識して備えることで、ご自分も、周囲の方も、満足のいく人生を送ることができると思っていました。

 その時、私自身の身に起こったのが父の死です。父は平成29年の春に亡くなりましたが、最期は病院のベッドで「家に帰りたい」とばかり言っていました。身内の死に環境面でも心情面でも備えていなかった私たち家族は慌てふためくばかり。最後は、母が家に連れて帰る覚悟を決めたにもかかわらず、「退院させて家でお迎えを待ちますか?」という医師の提案を断ったのは私でした。

 最期を迎えるときはどうするのか、父はどうしたいのか、現実的にどのように対処するのか、元気なうちにいろいろ調べて、家族で話し合っておけばよかったと今でも後悔しています。もちろん、すべてが予め決めたとおりにはならないかもしれませんが、少なくともあの究極の状況でいきなり決断を迫られるよりは、冷静で納得がいく判断ができたはずです。

 また、後日、父の遺品を整理していたら、昭和10年代の親族や近所の人たちなどの写真がたくさん出てきました。古い白黒写真ですが、写真関係の仕事をしていた父が自分でプリントし直して、アルバムに貼った状態できれいなまま残されていたものでした。しかし、私たちには写真の中の人々が誰なのかが分からず、もっと父と話をしておけばよかった、父が子どもの頃の話を聞いておけばよかった、と悔やまれてなりませんでした。

 このような経験から、多くの方が、ご自分や大切な周りの方の「終焉」に際し、後悔しないような生き方を今、していただきたいと思うようになりました。そうして終活カウンセラーの資格を取り,終活を普及する活動をしています。

 終活のテーマは幅広いですが、それぞれの方がご自分のテーマを見つけ,ご自身に応じた適切な方法を知っていただき、その時に備えることで、今を精一杯、ご自分らしく生きていただきたいと思っています。

平成31年4月
弁護士・終活カウンセラー 海老原佐江子