1 終活とは何か

 終活とは、「人生のエンディングを考えることを通じて”自分”を見つめ、”今”をよりよく、自分らしく生きる活動」のことをいいます。健康な状態のうちから「自分の最期」に向き合うことで、自分自身の人生を客観視することができ「やり残してきたことはないか」や「今後やっておきたいこと」などが見えてきます(一般社団法人終活カウンセラー協会の定義)。

 すなわち,終活の目的は,「自分らしい最期を考えることで,最期まで自分らしくいきいきと生きること」にあります。

2 終活で行うこと

(1)エンディングノートの作成

 終活を始めるなら、まず、エンディングノートを書くことから始めてみるのがおすすめです。エンディングノートを書けば,終活に関し,ご自分の課題が何であるのかが明らかになるからです。市販のエンディングノートには様々なものがありますが,概ね,次のような項目を記載するようになっています。


健康状態について
 かかりつけ医の連絡先,これまでかかった病気,病気の告知や延命医療を望むかなど
財産について
 預貯金,有価証券,不動産,年金,保険,遺言書の有無と保管場所についてなど
葬儀とお墓について
 お葬式,お墓の希望,友人の連絡先など
人生の振り返り
 これまで人生ででどのようなことがあったかや,家族との思い出やメッセージ


 また,エンディングノートを書いておけば,万が一の時,ご家族や周りの方がノートから必要な情報を得ることができるため,ご家族の負担を軽減することができます。ただし、エンディングノートには遺言書のような法的拘束力はありません。

(2)生前整理

 生前整理とは,自分自身で身の周りの整理をすることです。私たちの身の回りのたくさんの物には,それぞれに思い入れがあると思います。しかし,あまりにもたくさんの物を残しておくと,それを片付けるご家族などに肉体的,精神的,金銭的な負担をかけてしまいます。


 今の自分にとって必要な物とそうでない物を見きわめ,必要でない物のうち,価値のある物は人に譲ったり,金銭に換えたりしておくとよいと思います。また,思い出深い物は残しておき,自分が亡くなった後にどうしてほしいかを周囲に伝えておく(エンディングノートに記しておく)とよいでしょう。そのようにすることで,すっきりとした気持ちで,日々を過ごすことができるはずです。

(3)終活にかかわる法的手続き

 ご自分に判断能力がなくなってしまった時や,もしもの時に備え,様々な法的手続きをとっておくことで,安心して日々の生活を送ることができます。

ア 遺言

 遺言書は,被相続人(亡くなった方)がご自分の財産を誰にどのように承継させたいのかの意思表示となり,相続人の意思(遺産分割)よりも優先されます。


 遺言がなくても,財産は,原則,民法で決められた相続人(配偶者やお子さんなど)に,民法で決められた「相続分」の割合に応じて相続されます。また,「相続分」どおりではなくても,相続人同士が話し合って,誰がどの財産を相続するかを任意に決めることが行われています(遺産分割といいます)。「ウチは仲が良いから相続で揉めるなんてことがあるはずがない」,「ウチはめぼしい財産はないから大丈夫」という声もよく聞きますが,そんなご家族が相続の話し合いで揉めて関係性が崩壊し,二度と口をきくこともできなくなった,なんて話も少なくありません。


 ご自分が亡くなった後にこのような悲劇が起こるのを避けるためにも,遺言書を準備するのが望ましいと思います。しかし,遺言書は必要な要件を欠いていると無効になってしまうため,作成に当たっては,専門家にご相談されることをおすすめします。

イ 成年後見

 判断能力がある今は,何でも自分で決めることができます。しかし,もし,将来認知症になってしまったら,「意思能力なし」と判断されて,自由に契約をすることができなくなってしまう可能性があります。そうすると,例えば,施設などに入居する必要があっても,ご自分で施設と契約を締結することもできなくなりますし,所有する不動産を売却して入居費用をまかなうこともできなくなってしまいます。ご家族が勝手にご本人の不動産を売却してお金を工面することもできません。


 そのような場合,「法定後見」といって,ご家族などが家庭裁判所に申し立てることによって「成年後見人」がつき,成年後見人がご本人の代わりに契約事務を行うことができます。しかし,法定後見は裁判所を通すため,手続きに時間がかかることと,知らない専門家などが後見人に就任する可能性があることがネックです。


 それに対し,ご自分が元気なうちに「任意後見契約」を結んでおけば,親族の誰かや,信頼のおける専門家などに後見人になってもらい,いざ認知症になってしまった時に,代わりに契約事務や財産の管理を行ってもらうことができます。

ウ 死後事務委任

 自分が亡くなった後にしなければならない事務を生前,誰かに託す契約を「死後事務委任契約」といいます。例えば葬儀,火葬,散骨,電気・ガス・水道等の未払代金の支払い,生前暮らした家の後片付け,ペットのことなどです。

 これらの事務は,ご親族が行ってくださることが多いのですが,おひとりの方や,ご親族がいても迷惑をかけたくない方,ご親族が高齢などの理由でお任せできない方は,誰かにお願いしてやってもらう必要があります。最近は,死後事務委任を取り扱う団体や法律専門家も増えてきています。

3 終活で期待できること

(1)自分自身の気持ち、心を整えることができる。

 終活のセミナーでは,まずこれまでの人生を振り返り,棚卸しする作業を行うようにすすめられます。
 趣味、家族、仕事、社会貢献,旅行など,人が何に幸せを感じるかはそれぞれです。人生の棚卸をすることによって,自分が幸せと感じることや本当に大切にしたいものが見えてきます。普段時間に追われて過ごしていたり,何となく時間を過ごしてしまっている私たちですが,人生における優先順位を意識し,それにできるだけ時間や活力をさくことで,新たな視点で毎日を過ごすことができるはずです。

(2)ご遺族の負担を減らすことができる。

 ご自分が亡くなった後,ご遺族は様々な手続きをしてくださいます。しかし,ただでさえ大切な人が亡くなり,精神的に参っているところを,追い打ちをかけるように様々な負担がご遺族をおそいます。しかし,終活をすることによって,ご遺族の負担を減らすことができます。


 また,おひとりの方や,ご遺族の手をわずらわせたくないという方も,終活によって自分が望むような最期を迎えることができます。

4 いつから終活を始めればよいのか。

 一般的には,50歳代~70歳代くらいが終活を始めようと思うタイミングであるようですが,親の終活の必要性を感じて終活に興味を持つようになった40歳代前後の方も多いようです。終活を始める時期に決まりはありません。終活は元気なうちに行うのがベスト。自分が興味を持った時が始めるタイミングです。


 終活は,これまでの人生を振り返り,自分が何を本当に大切にしたいかを見つめる活動でもあります。早く始めれば,今後の人生をより充実したものにできるはずです。

5 誰に相談すればよいのか。

 一般社団法人終活カウンセラー協会では,終活カウンセラーを養成しています。終活カウンセラーとは,終活している方々の相談や悩みを聞き、相談者に適切にカウンセリングとアドバイスを行う人々です。また、相談内容によっては専門家が必要かどうかを見極めることもします。終活カウンセラーは,葬儀社などのエンディング産業や,保険会社などの従業員の方が取得していることが多いようですので,まずは,お近くの終活カウンセラーに相談してみるとよいと思います(終活カウンセラー協会による「終活相談ドットコム」のページ)。


 ただし,終活カウンセラーは自ら法的手続きなど専門的なご相談に乗ることはできません。特に法律相談は,限定なくできるのは法律で弁護士だけとされています。限られた範囲については,弁護士だけでなく,司法書士や行政書士などの専門家にもご相談いただくことができます。